Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    春一番、仔猫の乱 B
 



          





 二人が黒塗りの大型ベンツで辿り着いたのは、泥門市のちょっぴりと郊外にあたる辺り。只今 絶賛開発中なのか、それともバブル期に需要を当て込んで土地を整備したが、そのアテが見事に外れ、住宅街はおろか郊外型店舗さえ寄りつかないままな地域なのか。道路沿いのブロックでさえ雑草が芝生代わりに広がる“更地”が目立ち、とりあえずのマンションが何棟かと、住民よりも先に入ってた不動産屋の事務所や店舗用の背の低いテナントビルだけが、ポツンポツンと辻々に何とか建ってるような案配の、ある意味“閑静”で何とも侘しいところであって。
“本来だったら、こんなにも人が出入りしてるトコじゃあないんだろうな。”
 車窓から見えたのは、そんな土地柄にもかかわらず集まっていた、結構な数の人々と様々な車輛の行き来だったのだけれども。そこにあった微妙な統一感のようなものもまた、それが今日だけのことというカラーを如実に示しているような。濃紺の揃いの作業服を着て、番号のついたプレートをあちこちに置いてはやたら写真を撮っている人、バインダーに挟んだ書類への書きつけに忙しそうな人。重そうな段ボール箱を抱えて とあるビルから引っ切りなしに出てくる人たちは、地味な背広姿であるところから、恐らく刑事さんかと思われる。それ以外は…ユニフォームの背中のロゴからして、警察の鑑識関係の人たちではなかろうか。そんな人たちの立ち働く“関係者以外は KEEP・OUT”なゾーンの外では、何かネタはないかと隙なく周囲を見回している事件記者やテレビクルーだろう取材班が少々に、その他として…お決まりの野次馬とが詰め掛けていて。
“何かあったってことか。”
 番地を確かめずとも、ここが問題の…歯医者さんから渡されたあのカードに指定されてた住所のビルだろと判る。文化教室や何かの事務所のそれらしき、しゃれたカタカナの名が転写されたプレートが幾つか、一階の玄関ドアの前の壁に縦に並べて嵌め込まれてあるものの。ガラス張り…だったらしいものが派手に砕けて枠だけ残った扉越しに覗いてる、よくあるスチールの郵便受けには、ほとんど札がついてないままだったから、実質は閑古鳥が鳴いてたような状態だったに違いなく。
「こんなまで人が居ないところだってのに…。」
 なのに、一体どんな騒ぎがあったんだろかと、ともすれば唖然としての仁王立ちになった葉柱のお兄さん。何しろ、そこは凄まじい惨状にあったから。まだ若い樹だからかどこか貧弱な枝振りながらも、春の若葉が梢にはためいてる木立に囲まれたテナントビル。各階にせいぜい1つか2つの事務所やフロアが限度だろう、細長い4階建ての雑居ビルで、さほど古くは無さそうなのに、外壁のあちこちが黒く煤けてひどく汚れており、モルタルの部分には ひびが走ってるところまであるほどで。スライド式のサッシ窓もドアのように片側へと押し開けるタイプの一枚窓も区別なく、ガラス窓のほとんどが粉砕されているのが何とも寒々しい。場所が場所だし、妙な言いようになるがこの生き生きとした調査状況という扱いから、時間をかけて自然とそうなったものではないということは素人目にもありありと分かり。現場検証にと出入りする警察関係者以外は誰も居ないままなのか、それだからか尚更に、生気とか生活感とかいったものを感じさせない建物で。テレビの海外ニュースなどでよく見る、テロの襲撃に遭った建物ってのがこんなじゃなかったかなと思えたほどの破壊&破砕ぶり。だが、昨夜や今朝の地域のニュースでも扱われてはいなかったので、死者や負傷者は出なかった、ボヤ程度以下の規模の騒ぎだったのだろうと、そういう推察も出来た葉柱で。
“言われてみりゃ、消防車のサイレンとか、結構聞こえてたような気もするが。”
 救急車輛のサイレンは、されど毎日のようにどこかから響いて来るのを聞いてるもの。いわば環境音のようなものだから。人の多い土地であればあるほど、その頻繁さに感化され、誰か倒れた人でも出たんだろうとさえ思わないくらいに馴染んでしまうのが、ある意味で困りもの。そんなせいで関心も向かず、こうまでの騒動があっただなんて、葉柱は今の今まで全く知らないままでいた。警察が張ったものだろう、すぐ際に巡査の立っているだけだと足りないか、立ち入り禁止の黄色いテープが“とおせんぼ”をしている、ビルへのエントランス前にて。ついのこと立ち止まった総長さんが、これも ついのこととて零した独り言へ、

  「人がいなかったから、怪しい輩が潜んでたって思わねぇ?」

 自分の肩よりずんと低いところからの声が、的確な言いようにて応じて下さり。まだ声変わり前の、一点の掠れも引っ掛かりもない、伸びやかで軽やかな、耳に馴染みの可愛らしいお声が、いつもの調子でこまっちゃくれた言いようをしただけなのだが。
「…それもそうだな。」
 言われてみれば、単なる現場検証で ああまで家財道具を運び出すのも妙な話であり。外部からの攻撃にあったか、それとも何らかの事故が起きたか。どっちにせよ、ここに居た住人への容疑も持ち上がっているということには違いなさそうで。

  「…で。これにお前が関わっとるって訳か。」

 ちろりと。顔は動かさないまま、目線だけをそっちへ向けて落とせば。ランドセルは車へ置いて来た身の、スカジャンを羽織った小さな肩が、案外あっさり、ひょこりとすくめられたから。本人も自覚満々にあることとて“是”という次第であるらしく。
“日頃はついつい忘れてることだけどもよ。”
 この、焼夷弾でも投げ込まれたかと思えるようなとんでもない惨状が、不幸にも彼が巻き込まれた事件…ではなく、彼が何かしでかして起きたことの結果だと。そういう順番に違いないと、すぐさま把握出来てしまう自分の判断もまたどうかと思うがと溜息が1つ。そういうのをその筋の専門用語で“学習”っていうんですぜ、葉柱さん。
(こらこら) 大人だって敵わないレベルのどんな奇策だってこなせるだけの、知識と器用さと大胆さとを、この年齢で既に持ち合わせている末恐ろしい子だってことは、先刻承知の葉柱だったが。それを悪用しての、度の過ぎた…犯罪行為に紙一重なことをまで、面白がってしでかすような薄っぺらな子ではないのもまた、よくよく承知していたので。そっちの方向への信頼は揺るがないと来れば、残るは、

  「大事はなかったのか?」

 手短な聞き方になったのは、無残にも枠だけになったエントランスの扉前から、こっちに気づいたスーツ姿の男性が、会釈を見せつつ向かって来たのが視野に入ったから。妙な通じ合いの乗った会話にて あんまりあれこれ訊いてる場合ではないからだったが、そんなぞんざいな訊き方でも、
「おお。どっこも何ともねぇ。」
 心配すんなと一丁前に口の端で苦笑う、やっぱり末恐ろしい小学生であり。こんなもんで驚いてちゃあいけない、この子の真骨頂はこれからで。

  「えっと、ヒルマ ヨウイチくんだね?」

 近寄って来た背広姿のお兄さんが、事実確認をするように、手元に開いた黒手帳に記したメモと坊やとを見比べながらのお声をかけて来たのへ、
「はい。えと、きのーの晩に、お母さんがお電話もらって、来ました。」
 いかにもたどたどしく、緊張してますという気色を滲ませたお返事をし、傍らに立っていた葉柱の学ランに小さな手でしがみつく。ただでさえ…小柄で華奢で、金髪に淡い色の眸をした愛らしい風貌の、まだまだ幼い男の子。そのまま連れの背中の陰に回りかけるのもまた、相手へいかに覚束無いかということへのなかなかの印象を与えたようで、
「あ、大丈夫だよ? ちょっとだけ、お話を訊くだけだからね?」
 すぐに終わるからねと、予防接種の前みたいなお言いようをした若い男性。物腰が柔らかではあるものの、清潔そうな身だしなみの、隙のない眼差しやくっきりとした物言いは間違いなく刑事さんであるらしく。そんな彼の視線が続いて向けられたのが、傍らにいて坊やがしがみついた“連れ”へであり。
「君は?」
 今時の十代にしてはかっちりと出来上がった厚みのある体つきに加えて、こんなただならない空気の場にいても妙に落ち着いた表情のまま、ともすれば風格さえある態度でいる青年だ。なのに、どう見ても高校生のそれだろう…しかも改造ものの制服を着た葉柱へ、何物だろうかと断じかねているような微妙なお顔になった刑事さん。疚しいところはないのだから特におもねる理由もないしと思った葉柱だったものの、それでも高飛車で挑発的な態度にはならぬよう、せいぜい控えた態度を保ち、
「この子の保護者の代理です。」
 まずは坊やの“何”にあたるのかを答えてから、
「葉柱ルイ、都立賊徒学園 高等部3年。何なら生徒手帳を見せますか?」
 高校三年生ということは。微妙に未成年なので誰ぞの後見になれる立場ではないはずだが、あまりに幼い坊やへの単なる付き添いにということへは特に問題もないだろし。それに、

  「ハバシラ…?」

 そうそうどこにでもある苗字ではないからか、あれれと注意を留めた刑事さん。芸能人や話題の芸人などではなく、自分の活動範囲での常識圏内であるところ。首相や公安委員長、警視総監でも刑事局長でもない名前ながら、どっかで聞いたぞその名前と、頭の中のインデックスをめくっているらしきその目が、青年たちの背後の人垣の向こう、こんな場には場違い極まりない黒塗りの高級車へと目が留まり、
「あ…。」
 それで何とか、思い出せた人物があったらしい。政治向きには関心が薄くても、この市から出た都議だからこそ、地元の者なら大概知ってる大立者。ああそうだ、確かここの近所に所属政党の事務所もあったっけ。業者との癒着だの公費乱用だのという黒い噂は一切聞かれない、豪放磊落な都議会議員。だってのに、市民のお祭りや交通安全キャンペーンなどには、必ず本人か夫人が顔を出すマメな人。
「あ、そうですか。」
 そんな人のご子息らしいなと、やっと頭の中での情報が落ち着いたらしい刑事さんは、とはいえ、高校生相手にいきなり敬語になるのも何だしとも思ったらしい。それはそれでこれはこれ。割り切りに至るまでのささやかな混乱に、何度かぱちぱちっと瞬きをしたのが、場合が場合でなければ笑えたかもだが、此処はなるだけ真顔を保っていると、
「判りました。」
 高校生みたいだが、保護者として認めましょうということだろう。そんな会釈を見せてから、ではこちらへと、坊やと一緒に建物の中へと促された。そんな運びに従いながら、
“…成程ね。”
 呟いたのは胸の裡
うちで。迎えに来た自分を見て大層驚いてたくらいだから、これはこの坊やが考えた段取りじゃあない。

  『これは俺よかあんたの方が適役だと思うんでな。』

 押し出しのいい車、制服、そして…必ず名乗ること。あの歯医者さんが出した指示に従えば、この金髪の坊やは“あの葉柱議員の関係者だ”ということがさりげなく伝わる。それが悪事や、過失であれ何がしかの罪であるのなら、そんなことに左右されてもらっちゃあ問題だけれど。そうでないなら…関係者に課せられる捜査上の手続きやら何やらという繁雑なことからの優遇を、出来るだけ通してもらえるやもしれない、言わば“お墨付き”になろうからと。そうと判断し、こんな段取りを勝手に組んだ阿含さんだったらしくって。ちょっぴり狡い“大人の計算”ではあるけれど、何からだって守りたいとする大切な子であるのなら、どんなガードだって惜しみ無くつけてやりたいと思うもの。ましてや…葉柱が直感したように、実はこの子こそがこの一件の首謀者に違いないってことを、何がなんでも隠さにゃならないと来ては…ねぇ?
(苦笑)
“別に、誰かがそうだと声高に言い出したとしても、信じる者なんて一人だっていなかろうけれど。”
 風にさえ手折られそうな見栄えの、八つか九つの子供ですもんねぇ。
(笑) そんなことへのフォローがまた、あからさまで強引な力技や作為的な手回しではなく、何ともさりげない周到さで固められてたってところが、むしろ小癪な知恵のように思えてならず、
“あのヤロが…。”
 勝手に人を使ってカッコいいことしてんじゃねぇよと、胸の裡にてせめてもの憤懣をこぼせば、
「じゃあ、ボクだけちょっとこっちへ来てね。」
 外から見てた以上の頭数の人々がごった返してる中、幅の狭い階段を上った2階にて。剥げ落ちた内装材が散乱したり、やはりガラスの破片が取っ散らかってる中、これでも何とか片付いたらしい通路の端に立った二人へ向けて、先導して来た若い刑事さんがそんな声をかけてくる。呼ばれた妖一くんは、まずは葉柱のお兄さんのお顔をすぐ間近から見上げて見せ。それがいかにも不安そうに映ったのか、
「あ、ごめんね。ちょっとだけおじさんにお話聞かせてくれればいいからね。」
 申し訳なさそうな声になった刑事さんの方へ視線をやって、さあ行きなさいという素振りをこっちも見せてやれば。こっちが肩へと降ろしてやった腕で、ちょうど周囲から顔が隠れたのをいいことに。こっそりと一瞬…にまって笑った困った坊や。それから振り向くと、さあここからが“演技”の始まりか。歩き方までどこか怖ず怖ずとしたものを取り繕って、呼ばれたところ、刑事さんが立っている とあるお部屋の前まで歩みを運ぶ。
「じゃあ始めるよ?」
「はい。」
 部屋の中にも他の刑事さんがいたらしく、そちらへと視線を向けて何やら目配せしたことで始まったのが、いわゆる“事情聴取”を兼ねた検証で。

  「このお部屋に、セナくんていう子と二人、
   知らないおじさんに柿の木公園から連れて来られて、
   ずっと閉じ込められたんだってね?」

  ――― はい?

  「そです。」

  ――― おいおい、それって?

 いきなりそう来るかと、葉柱が愕然としている前で。事情聴取は進められ、
「それから、しばらくしたら今度は急に窓が割れたりして、おじさんたちが右往左往するような大騒ぎになったんだったね?」
「えっと、なんかベルの音がしたです。そいで、どしたんだろうってセナくんと言ってたら、ぱんぱんってあっちこっちから音がして。」
 うんうんと頷く刑事さんは手帳への書き足しをしているが、正式な書類には室内にいるもう一人が記録しているものと思われ、輪郭の曖昧な声が遠くから聞こえ、坊やが不安そうにこっちを見やる…振りをする。それへと頷いてやると、刑事さんに連れられてお部屋の中へと入ってゆき、あっと思い出したような素振りで、葉柱へも“こっちへ”という目配せが飛んで来た。子供への事情聴取は、保護者立ち会いの下でというのが原則だからだろう。招きに応じて戸口までを運べば、そこは殺風景な小部屋で、他と違って案外ときれいなままだ。閉じ込められてたという話だから、それが幸いし、喧噪からも隔離されての無事だったということか。室内にはやはりもう一人、こちらは年配の背広姿の男性がおり、明るい窓辺に立って、バインダーに挟んだ書類へ黙々と何やら記していらっしゃる。
「その時、二人はどんな風に此処にいたの?」
「うっと、えっと。」
 辺りを見回し、
「この辺にしゃがんでじっとしてました。そしたらサイレンの音とかして、そいで、助けて〜って言ってドアを叩いたら、外から開けてくれたのが消防士のお兄さんで。」
 二人の刑事が目配せを素早く送ったのは、何か確認してのことだろう。
「あのね? ヨウイチくん、その時、二人は縛られてたのかな。」
 あんまり思い出させるのは忍びないがと、声のトーンが落ちたのへ追随してか、
「えと…あの…。」
 自分で自分の二の腕を抱くようにして、俯いちゃった小さな坊や。ふわふわな金の髪が窓からの春の陽光に淡くけぶってそりゃあ愛らしく。白いお顔が困ったように…辛そうに歪んだのが何とも痛々しかったので。
「あ、ああ、ごめんねごめんね。怖いこと、思い出させたね。」
 あたふたしかかる刑事さんへ、ううんとかぶりを振って見せ、
「えと、僕らそのままでいました。携帯をおじさんたちに取られちゃってたの、確かめられたですし。」
 放り込まれていただけで、そこまでの狼藉は受けてないと、正確なところを思い出して語った彼であり、
「そっか。偉いね、ありがとね。」
 よくぞ思い出してくれましたと、お礼を言ってくれた刑事さんへ、
「セナくんは、あのね? 埃とかいっぱい吸い込んじゃってて…。」
「うんうん。聞いてるよ。喉が腫れちゃったから今日は来れませんて。」
 だから、坊やが二人分頑張ってくれたんだねって、髪を撫でてくれたお兄さん。再び、もう一人の刑事さんと顔を見合わせ、
「じゃあ、えっと。」
 窓際にいた方の刑事さんが背広の懐ろからおもむろに取り出したのは、小さなカードみたいに見えたけど、
“ポラかな?”
 恐らくは“容疑者”たちのバストショットを取った、聞き込み用のポラロイド写真だろう。いやいや、今時ならデジカメのプリントアウトかも知れないが。それを見せられた坊やが、怖ず怖ずと何枚かを指差して見せたところで、

  「はい。ありがとうね。」

 それで終わりということか。若い方の刑事さんがもう一回頭を撫でて下さって、坊や以上に葉柱のお兄さんの方が、ほぉっと肩から力が抜けた一瞬だったそうな。





            ◇



 すぐお隣りの事務所のような部屋から運び出されていたのは、色んな機種の携帯電話が、みかん箱サイズの段ボール箱に一杯と、印刷所の名前が横っ腹に入った、未開封のやはり段ボール箱が幾つかと。テーブルにはノートタイプのPCが何台かと、名簿のようなファイル数冊と、銀行の通帳やカードがそれぞれに幾つかあったそうで。どうやら此処は彼
の有名な“振り込め詐欺”の実行犯たちが足場にしていた“隠れ家”であったらしいというのが、後日の警察発表から明らかになったのだけれども。
「後日にまた、法廷とかへの呼び出しがあるんでしょうか。」
 もう良いよとは言われたが、後塵があるようでは気を抜けない。おっかないことがやっと終わったぞと言わんばかり、駆け戻って来てまとわりつく坊やを、こちらも長い腕で懐ろへと抱え込んでやりながら。保護者代理として伺ったところ、
「ああえっと。そういうことはないと思いますよ。」
 何せ、消防署の人間が助け出したので、そちらからの確たる証言が取れるのだし。それに、当然のことながら幼児略取と監禁の方が罪は重いが、その前に別の容疑での逮捕と身柄拘束が出来ている“容疑者”たちだったので、護衛目的の監視という堅苦しい処置も取られはしなかろう。
「取り調べの一環で、事実確認の手続きはあるかと思われますが。」
 そちらにしても、公園で坊やが鳴らした防犯用ブザーの音を聞き付けたらしき主婦が何人もいたそうで、そんな大人たちの証言も聴取済みであるらしく。ただでさえ怖い目に遭った幼い子供だけに、法廷まで引っ張り出すのは酷なこと。証言能力があるかどうかが問われもしようから、そこまでの召喚はないと思いますとの言質を取ったところで。それではお暇致しますと、せいぜい粛々とした様子を装って、報道関係者がカメラを向けて来るのを避けながら、ベンツの傍らまで戻って来て。

  「で。俺には、真相の方を話してもらえるんだろうよな。」
  「………うん。」

 よくぞ ここまで我慢しました。ちょっぴりその眸が座ってる、葉柱のお兄さんの問いかけへ、坊やも観念してかこっくりこと頷いて見せたのでありました。






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